税理士法人 横浜総合事務所
株式会社横浜総合マネジメント
株式会社横浜総合フィナンシャル
株式会社横浜総合アカウンティング
株式会社横浜総合エクスペリエンス

Column

2025.11.18

M&Aにおける企業価値評価(Valuation)

企業の合併・買収(M&A)は、単に会社を売買する取引ではありません。それは、経営資源の最適化と新たな成長戦略の実現を目的とした経営上の意思決定です。
その中心にあるのが「企業価値評価(Valuation)」という考え方です。どれほど魅力的な企業であっても、価値を正しく把握できなければ、取引は適正な価格で成立しません。逆に、評価を誤れば、買い手にとっても売り手にとっても不利益を生じるリスクがあります。
M&Aの現場では、財務諸表上の数値だけでなく、将来の収益力や成長性、ブランド力、経営体制など、多面的な要素を分析し、企業が持つ「本来の価値」を明らかにすることが求められます。本稿では、企業価値評価の基礎から代表的な算定手法、さらに価格決定のプロセスまで、M&Aの実務に直結する知識を解説していきます。

この記事のポイント
  • 企業価値評価(Valuation)についての基本的な内容が分かります。

企業価値評価とは何か

企業価値評価(Valuation)とは、企業の現在および将来の価値を定量的に分析・評価するプロセスを指します。企業が保有する資産・収益力・成長可能性などをもとに、財務的・定性的な観点から総合的に判断します。M&Aや資金調達、経営戦略の策定など、多くの経営判断の基礎となる重要な工程です。

なぜ必要なのか

企業価値評価は、M&Aにおいて取引価格を決めるための出発点であり、交渉を公正かつ合理的に進めるための指針となります。また、企業の現状と将来性を客観的に把握することで、リスクを抑えた経営判断を可能にします。

評価方法の3つのアプローチ

将来生み出すキャッシュフローを基に価値を算定する方法で、代表的な手法はDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)です。将来のフリーキャッシュフローを資本コストで現在価値に割り引きます。

1)インカムアプローチ(将来収益重視)

将来生み出すキャッシュフローを基に価値を算定する方法で、代表的な手法はDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)です。将来のフリーキャッシュフローを資本コストで現在価値に割り引きます。

  • メリット:将来性を反映できる
  • デメリット:前提条件により結果が大きく変動する

2)マーケットアプローチ(市場比較重視)

市場での取引相場を基準に算定する方法です。類似上場企業の株価倍率(PERやEV/EBITDA)を用いた「類似会社比較法」や、過去の取引実績を基にした「取引事例法」があります。

  • メリット:市場の実態を反映しやすい
  • デメリット:適切な比較対象を選ぶ必要がある

3)コストアプローチ(資産重視)

企業が保有する資産・負債の価値を基に評価する手法です。簿価純資産法や時価純資産法のほか、平均利益を一定年数分加算する「年倍法」もあります。

  • メリット:理解しやすく安定的
  • デメリット:将来の成長性を反映しづらい

手法の使い分けと実務上のポイント

企業の規模や業種、評価目的に応じて手法を使い分けることが重要です。一般的な判断基準は以下のとおりです。

評価目的 主な手法 想定企業規模
将来成長性を重視 DCF法(インカムアプローチ) 中~大企業
市場相場を重視 類似会社・取引比較法(マーケットアプローチ) 中~大企業
実態価値を重視 時価純資産法・年倍法(コストアプローチ) 中小企業

複数の手法を組み合わせることで、理論値・市場値・下限値の3つの観点からバランスの取れた評価が可能になります。

価格決定のプロセス

企業価値評価で導き出した理論値は、実際のM&A価格を決めるための“出発点”にすぎません。実際の取引価格は、シナジー効果・デューデリジェンスの結果・交渉力・市場環境など、複数の要因を経て最終的に形成されます。以下では、そのプロセスを5つのステップに沿って解説します。

ステップ①:理論価値の算出

まず、インカム・マーケット・コストの3つのアプローチをもとに理論的な企業価値を算出します。これにより基準となる価格範囲が明確になり、双方の交渉の前提が共有されます。複数の手法を組み合わせて検証することで、価格の妥当性がより高まります。

ステップ②:シナジー効果の反映

買い手企業は自社との統合により生じるシナジー効果(相乗効果)を加味します。販売網や顧客基盤の共有による売上拡大、製造・物流コストの削減、技術の統合など、統合後の付加価値をDCF法などに反映させます。

ステップ③:デューデリジェンスによる調整

財務・法務・税務・人事などの観点から詳細調査を行い、リスクを洗い出します。簿外債務や訴訟、税務リスクが発見されれば価格は減額され、健全性が確認されれば上方修正されることもあります。

ステップ④:最終交渉と価格決定

調査結果を踏まえ、最終的な交渉を行います。個別交渉方式または入札(オークション)方式により、双方が納得できる条件を構築します。
最終価格 = 理論価値 ± シナジー ± リスク ± 交渉力 で決定されます。

ステップ⑤:非価格条件を含めた合意

最終契約書(株式譲渡契約書)では、価格以外の条件も定めます。経営者の継続期間、従業員の雇用維持、ブランド・取引関係の承継方針、アーンアウト(業績連動)条項などが含まれます。M&Aの成功は金額だけでなく、譲渡後も持続的な関係を築けるかどうかにかかっています。

最後に

企業価値評価は、企業の資産・収益力・成長可能性を総合的に分析し、将来の価値を算出するプロセスです。特にM&Aにおいては、取引の適正価格を導き、交渉を円滑に進めるために欠かせません。各手法の特徴を理解し、適切な方法で評価を行うことが成功の第一歩です。
自社の価値を正確に把握したい、またはM&A戦略に関する相談をご希望の方は、ぜひ弊社へご相談ください。

この記事を執筆したのはです
Saito
ソリューション事業部
シニアスタッフ
1995年横浜生まれ。大学卒業後、2018年に新卒で税理士法人横浜総合事務所に入社。
入社後2年弱は所内の製造部門であるTeam会計税務支援に勤務。
2020年より現在のTeam戦略経営に異動し、中小企業・個人事業主を中心に60社ほどのお客様を担当させていただいています。
今後も経営者の方の夢の実現をサポートさせていただくと共に、自分自身も日々成長を続けていきます。
TEAMyoko-soは、
経営者様の手となり足となりブレーンとなり、
最も身近なビジネスパートナーで
あり続けます。
045-641-2505

(月~金 9:00~18:00)