これからの組織戦略 人的資本経営とは?
経営コンサルタントを名乗る実務のたたき上げ中年オヤジ(50歳)が、経営の原理原則を学ぶべくMBA(大学院)に通うことを決意し、日々の学びと気づきを不定期でつぶやきます。
- MBA(経営学修士)での学びを手軽に追体験できます
第16回目のテーマは…これからの組織戦略 人的資本経営とは?
これまでコラムでは、経営全体像から各種事業分析、マーケティングに関する基本的なフレームはお伝えしてきました。次回以降は組織の在り方についてのコラムを予定しており、その前段として、昨今意識されている【人的資本経営】について考えたいと思います。
そもそも人的資本経営のルーツは、1964年アメリカの経済学者ゲイリー・ベッカーが『Human Capital』にて、教育・訓練・健康などへの投資が企業・国家の生産性向上に資することを示し、人的資本経営の基礎となる考え方を提唱したことに端を発します。
その後1990年代以降、欧米企業で「Human Capital Management(HCM)」が使われ始め、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、投資対象としてマネジメントする考え方として広がっていきました。日本では2020年以降経済産業省が『人的資本経営の実現にむけた検討会』を設置したことから注目をされました。
企業にとっての人的資本経営とは?
これまでの経営においては、人材に支払われる対価はPL(損益計算)においてあくまでコストと認識され、収益を上げるための経費として会計処理されています。

仮に人件費をコストと考えるならば、その支出額をより抑制させることで、収益が大きくなるのが経営の合理的な考え方となります。
これに対して、人的資本経営の視点では、人材に対する支出を投資と捉え、社員・組織の中に無形固定資産として知的財産が蓄積されていくもとし、その相手勘定となるのが、社員による出資(資本)となるイメージでしょうか。言い換えれば、社員が組織にノウハウを通じて出資し、株主して経営に関与する経営の新たな形と言えます。

企業としては、知的財産を有する社員が会社に残ること=その能力を出資して事業の発展に貢献してもらうことが重要であり、出資に見合うだけの【働く環境の提供】と【成長の機会創出】が求められる経営へと変化することを意味します。
社員にとっての人的資本経営とは?
人的資本経営は、社員を「コスト」ではなく「価値を生み出す資本」と見なす経営です。
社員にとっては、次のようなメリットが生まれるでしょう。
- 会社が社員の成長に投資する
・研修、資格取得支援、キャリア形成支援が強化される。
・例:リスキリング・キャリア相談・社内公募制度など。 - 個人のスキル・経験が資産として評価される
・どれだけ成果を出したかだけでなく、学び・経験の蓄積も価値とみなされる。
・組織に依存しない市場価値も意識される。 - 働きがい・エンゲージメントが重視される
・働きやすさだけでなく、働きがい・自己実現が重要視される。
・社員の意欲やアイデアが組織価値につながることを経営が認識する。
人的資本経営にむけて個人が意識すべきこと
人的資本経営のもとでは、社員も主体的に「自分の資本価値」を高めることが求められます。
- スキルや経験を「資本」として管理する(継続学習)
・日常業務だけでなく、学び・資格・異動経験を意識的に積み重ねる。 - キャリアは会社任せにしない(自律的キャリア)
・会社が投資してくれる一方で、自分でキャリアの方向性を描くことが重要。 - エンゲージメントを自ら高める(主体的行動)
・経営は社員の意欲やアイデアを重視するため、主体的に意見・提案を出すことで自分の価値も高まる。)
人的資本経営の本質は、主体が社員(個人)であることです。
「会社が社員の成長を資本とし、社員も自己成長を通じて会社と自分の価値を高める」関係性と言えます。
つまり、社員(個人)が「学びと成長を投資に変える時代」であり、キャリアへの主体性がより重要になる経営と言えます。
まずは、自社の人的資本=社員の有する能力・付加価値を見つめ直し、更なる向上にむけての方法について、考えてみてはいかがでしょうか。
社長!本当に経営、できていますか?